マドラサ(あるいはマダリサ、アラビア語で「学校」を意味する madrasa)とは、イスラム世界において宗教教育を中心に行う伝統的な教育機関であり、その起源は中世イスラム文明の黄金時代にまでさかのぼります。マドラサでは主にイスラム法(シャリーア)、クルアーンの解釈や朗唱(タジュウィード)、預言者ムハンマドの言行録(ハディース)、アラビア語文法、神学(カラーム)、論理学、そして一部では数学や天文学などの世俗知識も教えられてきました。中世には、バグダードやニシャープール、カイロといった学術都市において、多くのマドラサが設立され、学問と精神修養の場として機能しました。
時代が下るにつれ、マドラサの性格や教育内容は地域ごとに多様化していきました。南アジア、特にインドやパキスタン、バングラデシュなどでは、英国植民地時代以降、西洋的な教育制度に対抗する形でマドラサ教育が重要視され、現在でも多くの子どもたちが基礎的な読み書きや宗教知識を学ぶためにマドラサに通っています。一部のマドラサは全寮制で、生活の全般を共同体の中で送りながら、厳格な宗教教育を受けるという体制をとっており、特にクルアーンを完全に暗記する「ハーフィズ」の育成が重視されることもあります。
しかし、近年では一部のマドラサが過激思想の温床になっているとの批判や懸念も国際的に取り沙汰されており、特にパキスタンやアフガニスタンの一部地域では、国家の監督が十分に及ばないマドラサが、過激派勢力に利用されているとする報道もあります。ただし、これは全体のごく一部であり、大多数のマドラサは、地域社会における道徳的教育と識字率の向上に寄与している伝統的かつ安定した学びの場として今なお機能しています。マドラサの存在は、イスラム世界における教育の歴史と精神文化を深く反映しており、その役割と意義は時代や地域によって大きく異なるのが実情です。
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