素材と構造からみたアフガニスタンの住居の特徴

アフガニスタンの伝統住居の特徴

アフガニスタンの住居は、多様な気候や風土に適応するため、地域ごとに特徴が異なります。ここでは、遊牧民が使用する「ユルト」と定住型の日干しレンガの住宅「アドベ住宅」について説明します。

ユルト:遊牧民の住居

キルギスタンのユルトの画像
参考;キルギスタンのユルト

ユルトは、アフガニスタンに限らず中央アジアの遊牧民にとって重要な住居の形式です。同じ形状の住居をモンゴルではゲル、中国の内モンゴル自治区ではパオと言い、丸い形状や移動が容易な作りが特徴で、厳しい自然環境にも適応しています。

 

ユルトの構造は非常にシンプルで、ウールフェルトや柳の骨組みで作られるため、軽量で持ち運びが簡単です。内側は保温性が高く、外側は防水性が強いので、砂漠や高地でも適応できます。このため、ユルトはアフガニスタンの遊牧民にとって必需品として長年にわたり使用され続けています。円形のデザインは風の抵抗を受けにくく、内部の空間も効率よく利用できるという長所があります。

 

しかし、遊牧民の定住化が進みユルトで生活を営むクチ族(または、クーチ族、クーチス族)等の遊牧民は減少傾向にあります。

アドベ住宅:日干しレンガの住宅

コヒババ山脈の山間の日干し煉瓦作りの住居
コヒババ山脈の日干煉瓦作りの住居

 定住型の住居として一般的なのが、日干しレンガで作られたアドベ住宅です。アドベは粘土とワラを混ぜて作られ、太陽の力で乾燥させたレンガです。この素材は地元で容易に入手でき、建築コストも低く済むため、農村部や都市の郊外で広く使用されています。

 

アドベ住宅の構造は、気温の変動を和らげる能力があり、夏は涼しく冬は暖かいという優れた断熱性を持っています。

この構造は郊外部で特に多く見られ、地震や洪水といった自然災害に対してもある程度の耐久性を持っています。しかし、近年の地震被害を受けて、さらなる耐震性の向上が求められています。

伝統素材の使用方法

ウールフェルトと柳の骨組み

 アフガニスタンの伝統住居には、厳しい自然環境に対応するためにさまざまな素材が使用されています。その中でも特に注目すべきは、ウールフェルトと柳の骨組みです。ウールフェルトは遊牧民の住居であるユルトに使われる主要な素材で、高い断熱性を持ち、寒冷な高地でも暖かさを保つことができます。さらに、ウールフェルトは軽量で持ち運びが容易なため、遊牧生活に適しています。

 

 一方で、柳の骨組みはユルトの構造を支える重要な要素です。柳は柔軟性があり、加工が容易であるため、骨組みとして理想的な素材です。柳の骨組みにウールフェルトを被せることで、簡単に組み立てることができるうえ、頑丈で移動が可能な住居が完成します。このような素材の使用方法により、アフガニスタンの住居は遊牧民の暮らしに適した機能性を発揮しています。

石窟の利用

 アフガニスタンの一部地域では、極めて稀ですが石窟を利用した住居も見られます。石窟は自然の岩をくり抜いて作られたもので、砂漠気候の過酷な条件を避けるための住居として利用されています。石窟は内部が涼しく、外気の影響を受けにくいため、砂漠地帯や高地でも快適に暮らすことができます。

 

 このような住居は古代から続く伝統的な建築様式であり、長くその土地に根付いてきた構造です。素材として石を使用することで、耐久性が高く、メンテナンスが少なくて済むという利点もあります。また、石窟の内部は比較的安定した環境を保てるため、夏は涼しく、冬は温かいです。このような特徴から、石窟はアフガニスタン特有の住居として重要な役割を果たしています。

現代の技術と伝統の融合

耐震構造の導入

 アフガニスタンの住居において、耐震構造の導入は非常に重要な課題となっています。アフガニスタンは地震の多い地域であり、多くの住宅が地震によって倒壊するリスクを抱えています。そのため、耐震性を高めるための技術導入が進められています。近年では、イランの地震被災地での耐震建築技術の普及が参考にされ、日本のNPOが技術指導を行っています。これにより、現地の工務店や建築家が耐震構造について学び、安全性の高い住居が増えてきましたが、未だ十分とは言えません。

伝統的デザインの維持

 一方で、現代の技術を取り入れつつも、アフガニスタンの伝統的な住居デザインを維持することも重要です。アフガニスタンの伝統住居はその気候や生活様式に適応した巧妙な工夫が凝らされており、これを現代の住宅にも反映させることが求められます。幾何学模様やアラベスクといったイスラム建築の特徴を取り入れたデザインは、現代の住居にもエレガンスと文化的アイデンティティをもたらします。また、伝統的な素材である日干しレンガやウールフェルトを適切に使用し、エコロジーを意識した建築が進められています。

アフガニスタンの住宅に関する課題

地震リスク

 アフガニスタンは地震リスクが高い地域です。このため、耐震性が不足している住宅はしばしば倒壊することがあります。特に伝統的な日干しレンガ造りの住宅は、構造上の弱点が多く、地震時の安全性が問題になります。近年、耐震建築技術の導入が進められており、日本のNPOなどが主導するワークショップも開催されていますが、まだ広く普及していないのが現状です。

素材の入手難

日干し煉瓦の痕跡が残る遺跡
日干し煉瓦が露わになった遺跡

 アフガニスタンで使用される建築素材は、地域ごとに異なります。例えば、都市部ではコンクリートやレンガが使われることが多い一方、農村部では木材や石、日干しレンガなどの伝統素材が主流です。しかし、これらの素材の入手は簡単ではありません。特に、戦争や紛争の影響で物流が滞ったり、森林資源の減少によって木材の供給が不安定になったりするからです。