目次
ガンダーラ美術の定義と起源
ガンダーラ地方の地理
ガンダーラ美術が芽生え、そして発展したガンダーラ地方は、紀元前6世紀から11世紀にかけて存在した古代王国ガンダーラが存在したペシャワール渓谷を中心とした地域を指します。一般には、パキスタンのインダス川西岸からアフガニスタンの首都カブールまでの地域を言います。
王国は、一時期東はインダス川を超えたカシミールやパンジャブの一部迄までを支配していたものの、一般的に同地域はガンダーラ地方には含みません。また、王国の首都は、アフガニスタンのパルヴァーン州のバグラームに置いていたこともあります。
この地は古代から多文化・多宗教の中心地として知られており、様々な文化が交錯する場所でした。ガンダーラという名称は、インド神話の「ガンダーリ」族に由来するとされ、その歴史は古代から続いています。特にクシャーナ朝時代(1世紀から5世紀ごろ)には、ガンダーラは文化的に非常に繁栄し、多くの異文化がこの地で交わりました。
ガンダーラ美術の発展と時代背景
ガンダーラ地方で栄えたガンダーラ美術は、紀元前後から5世紀頃までのクシャーナ朝時代に最盛期を迎えました。開始時期は、紀元前50年から紀元75年とされています。ガンダーラ美術は、ギリシャ仏教美術と呼ばれることもあります。この時期、ガンダーラ地方はギリシャ、シリア、ペルシャ、そしてインドの様々な文化的影響を受けました。特にギリシア文化の影響は顕著で、ヘレニズム芸術の特徴を持つ仏教美術が発展しました。これにより、写実的で動的な表現が盛り込まれた仏像や菩薩像が数多く制作されました。
仏教は当初、仏陀そのものの偶像を崇拝することを否定していたが、この地でギリシャ文明と出会い、仏像を初めて生み出しました。インドをはじめ、中国や日本にも伝わり、また大乗仏教も生まれた。
この時代背景には、ガンダーラが仏教の中心地となり、僧侶たちが仏教説話を視覚的に表現するための彫刻や絵画に力を入れたことも影響しています。また、シルクロードの重要な中継地として、東西の文化が交錯した結果、ガンダーラ美術は複雑な様相を呈するようになりました。
ガンダーラ美術の主要な特徴
ギリシア・ローマの影響
ガンダーラ美術は、その発展過程においてギリシア・ローマの影響を強く受けました。特に、ギリシア文化のヘレニズム要素が取り入れられたことで知られています。ギリシア・ローマの彫刻と同様に、ガンダーラ美術の仏像や菩薩像は力強く、躍動感に満ちています。これにより、仏像の身体表現が非常にリアルで動的なものとなり、他のインドの仏教美術とは一線を画する特徴を持っています。また、顔立ちや衣服の表現にもギリシア的な要素が見られ、これによりガンダーラ美術が異なる文化の交差点としての独自性を強調しています。
例えば、ガンダーラ仏像の特徴は、螺髪が波状の長髪で、目の縁取りが深い容姿でまるで西洋人のように見えますし、ギリシャ彫刻にも似ています。着衣の皺も深く刻まれ自然な形状です。仏像はほとんどがレリーフであり、多くが仏塔の壁面に飾られました。
写実的な表現と技法
ガンダーラ美術のもう一つの大きな特徴として、写実的な表現と高度な技法があります。この地域の彫刻家たちは、人間の体の微細な筋肉や衣服の皺までを細かく彫り込む技術を持っていました。ガンダーラ美術では、ブッダや菩薩の像が非常に自然な姿勢や表情で表現されており、これはギリシア・ローマの彫刻技術を取り入れた結果とされています。この写実的な表現により、仏像はまるで生きているかのようなリアルさを持ち、観る者に深い感動を与えます。
また、ガンダーラ美術は多様な文化の融合がその魅力の一つです。インド、ギリシア、ペルシャ、シリアなど、さまざまな文化が影響を与え合い、独自の美術様式が生まれました。これにより、ガンダーラ美術は単なる仏教美術を超えた、文化的な豊かさと多層性を持つ芸術と評価されています。
地域ごとのガンダーラ美術の違い
ガンダーラ美術は、ガンダーラ地方という文化的な交差点で発展しました。この地域は、その地理的な位置から、多くの異なる文化や芸術様式の影響を受けました。その中でも、ペシャワール、スワート、タクシラの3つの主要な地域は、それぞれ独自の特徴を持つガンダーラ美術を形成しました。以下では、それぞれの地域ごとのガンダーラ美術の違いについて詳しく解説します。
ペシャワールのガンダーラ美術
ペシャワルはガンダーラ地方の中心部に位置し、古代インドの重要な都市でした。この地域のガンダーラ美術は、ギリシア・ローマの影響を強く受けており、彫刻は非常に写実的で動的な表現が特徴です。特に、ブッダ像や菩薩像には、筋肉の緊張感や衣服のひだがリアルに再現されています。ペシャワルのガンダーラ美術は、仏教美術としての価値は高いものの、現在はガンダーラ時代の遺跡はほとんど残されていません。
タフティバイ遺跡
1~7世紀のガンダーラ山岳仏教寺院遺跡。岩山にあるものの、 寺院の保存状態良好です。いくつかの建物に分かれています。
ペシャワール博物館
ガンダーラ美術に関しては各地から発掘された最大規模の発掘品を展示しています。
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