古代史❷；アフガニスタン南部のヘルマンド文明

ヘルマンド文明の概要

文明の起源と発展

ヘルマンド文明は、紀元前3300年頃から紀元前2350年にかけてアフガニスタン南部とイラン東部のヘルマンド川中流域から下流域で栄えた古代文明です。ヘルマンド文明が栄えたヘルマンド川は、アフガニスタン最長の川でカブールの西40㎞のヒンドゥクッシュ山脈に端を発しアフガニスタンを西流しマルゴ砂漠とレギスタン砂漠を経て、南西約1,150㎞のイランのセイスタン湿地帯で消えます。

 

ヘルマンド文明は形成期を経て紀元前3,000年頃に最盛期を迎えたと言われています。この時代には、粘土板に記録された文書や高度な建築技術も見られます。また、インダス文明やオクサス文明との交流があったことから、これらの文明からの影響も受けています。

主要な遺跡とその特徴

ムンディガクで出土した母なる女神像
ムンディガクの母なる女神像

ヘルマンド文明の主要な遺跡としては、シャール・イ・ソフタ遺跡(シャーリソフタ遺跡)とムンディガク遺跡が挙げられます。シャール・イ・ソフタ遺跡は、都市の構造がよく保存されており、特に大規模な建築物や公共施設が見られます。これらの建物は、当時の高度な建築技術の証拠です。また、大量の石器や陶器が出土しており、これらはこの文明における工芸技術の発展を示しています。

 

一方、ムンディガク遺跡は多様で、金石併用時代から青銅器時代にかけての7つの文化層が確認されています。建築物については、初期は練り土家屋から、後期には泥煉瓦家屋が作られるようになっています。

 

ムンディガク出土の塗装カップ
ムンディガク出土の塗装カップ

銅斧、銅ピン、槍先や針などの青銅器製品が出土しています。これらの遺跡からは、ヘルマンド文明が高度な社会組織と文化を持っていたことが明らかになっています。

文明の交差と交易の地アフガニスタン

古代から中世にかけての影響

アフガニスタンは、先史時代以降多くの文明が交差する地域でした。この地は、インダス文明、オクサス文明の他メソポタミア文明との接点となり、重要な交易ルートの一部を成していました。ヘルマンド文明もまた、この時代において繁栄し、他の文明からの影響を受けながら独自の文化を発展させました。

 

古代アフガニスタンでは、農業と牧畜が主要な生活手段として行われており、これにより地域社会が発展しました。また、各地で発見された考古遺跡や古代の遺物は、この地域が多くの文化的影響を受けていたことを示しています。

アフガニスタンの交易路としての役割

シルクロードの始まりは、歴史的には紀元前2世紀に中国の漢王朝が西域に進出したころに始まったと言われていますが、チュルク系遊牧民はそれ以前から中央アジアのステップ地帯を中心に移動を繰り返しており、その中心的位置に近いアフガニスタンは多くの商人や旅人がこの地を経由して商品や文化を交換しました。

インダス文明との関連

インダス文明の特徴と発展

インダス文明は、約紀元前3300年から紀元前1300年まで続いた古代文明で、現在のパキスタンとインド北西部の地域に位置していました。この文明は、その高度な都市計画、排水システム、そしてモヘンジョダロやハラッパなどの主要な都市遺跡で知られています。インダス文明の人々は、焼成煉瓦を使用して建築物を作り、精巧な衛生設備を備えた都市を構築しました。その経済は主に農業と貿易に基づいており、広範な交易網を持ち、メソポタミア文明などとも交易を行っていました。また、インダス文字と呼ばれる未解読の文字体系を持っていたことも特徴の一つです。

アフガニスタンへの影響

インダス文明の影響はアフガニスタンにも及んでいました。アフガニスタンは、その地理的な位置から交易の要所であり、歴史的に多くの文明が交差する地点でした。特にヘルマンド文明とインダス文明との間には、物質文化や技術の交流が観察されています。

 

例えば、インダス文明の精巧な都市計画や建築技術は、アフガニスタンの地域社会にも影響を与えました。また、アフガニスタンは、インダス文明との貿易ルートの一部を形成し、様々な資源の供給地としても重要でした。これにより、アフガニスタンの局地的な文化や経済が発展し、多様性に富む文明の形成を助けました。

ヘルマンド河川域の開発とその影響

農業と遊牧民の生活

アフガニスタン南西部に位置するヘルマンド川は、この地域の農業と遊牧民の生活に大きな影響を与えています。ヘルマンド川は約1150キロメートルにわたって流れ、その豊富な水資源は農業の発展に寄与しています。古代からこの地域では、灌漑システムが発展し、小麦や綿花、野菜などの栽培が行われてきました。

 

また、ヘルマンド河域は遊牧民にとっても重要な生活の基盤です。遊牧民は季節ごとに移動し、牧草地を求めて家畜を飼育しています。水が豊富なこの地域では、乾燥したアフガニスタンの他地域と比べて家畜の飼育条件が良好です。こうした農業と遊牧生活の共存が、ヘルマンド文明の独自の社会構造を形成してきました。

現代への影響

現代のアフガニスタンにおいても、ヘルマンド河域は経済と社会に多大な影響を与え続けています。1950年代から1970年代にかけて、アフガニスタン政府はヘルマンド河域の更なる開発を推進しました。この時期に多くの灌漑プロジェクトが実施され、農業生産性の向上が図られました。

 

しかし、1979年以降の内戦と紛争が続く中で、これらの開発プロジェクトは多くが中断されました。現代でもヘルマンド地域は政治的不安定性や治安の悪化に悩まされており、農業や生活の基盤が揺らいでいます。にもかかわらず、ヘルマンド川の水資源を利用した農業と遊牧民の生活は依然として地域経済にとって重要な役割を果たしています。

 

こうして見ると、ヘルマンド河域の開発とそれによる影響は、アフガニスタンの歴史と現代にわたり、その地域の特徴を深く刻んでいます。ヘルマンド文明の発展と衰退の背後には、常にこの重要な水資源が存在していたことが分かります。

結論

ヘルマンド文明の意義とその教訓

ヘルマンド文明は、アフガニスタンの多様な歴史と独特の地域性を物語る重要な証拠です。この文明は、古代からの農業と遊牧民の生活、そしてシルクロードを通じた交易といった様々な要素が交錯し発展しました。これにより、地域の発展と文化の多様性がもたらされたのです。

 

また、ヘルマンド文明の主要な遺跡やその特徴は、アフガニスタンが古代から重要な地理的・文化的中心地であったことを示しています。この文明の遺産は、現在のアフガニスタンにおける文化的自尊心を高め、歴史的な知識を提供します。

 

現代においても、ヘルマンド文明の教訓から学ぶことは多いです。特に、持続可能な農業と水資源管理の重要性を理解し、現代の社会や経済に適用することが求められます。これらの教訓は、アフガニスタンの現代における課題解決にも大いに役立つでしょう。

 

総じて、ヘルマンド文明の研究は、アフガニスタンにとって未だに重要な役割を果たしています。過去の知識と教訓を活かし、未来の発展に繋げることができるのです。この文明の意義を再認識し、その成果を次世代へと繋げていくことが大切です。