バクトリア

バクトリアとは、古代における中央アジアの一地域で、現在のアフガニスタン北部を中心に、タジキスタン南部やウズベキスタンの一部を含む広範囲にわたって存在していました。地理的にはアムダリヤ川(古代名オクサス川)の南岸に位置し、肥沃な土地と戦略的な立地によって、古来より東西の文化が交錯する重要な拠点となっていました。特にバクトリアの中心都市バクトラ(現在のバルフ周辺)は、「都市の母」とも称され、ゾロアスター教の創始者ゾロアスターが活躍した地とされるなど、宗教的にも重要な位置を占めていました。

 

歴史的には、バクトリアはアケメネス朝ペルシャの一部として知られ、後にアレクサンドロス大王の東方遠征によってマケドニアの支配下に入りました。アレクサンドロスの死後、この地はセレウコス朝の支配を受けますが、紀元前3世紀ごろにはギリシア系のバクトリア王国が独立を果たします。この王国はヘレニズム文化と東方の文化が融合した独自の文明を築き上げ、インドにまで勢力を広げたことで知られています。特にギリシア・バクトリア王国の時代には、多くのギリシア人が定住し、コインや建築、仏教美術などにその影響が色濃く現れました。

 

さらに、バクトリアは仏教の伝播にも大きな役割を果たしました。ギリシア人によって仏教が積極的に支援され、後のガンダーラ美術に見られるようなギリシア的写実主義と仏教的信仰が融合した様式が誕生する土壌となったのです。このようにバクトリアは、ペルシャ、ギリシア、インド、中国といった大文明の接点に位置し、古代世界における文化交流の重要なハブとして機能していました。その後、クシャーナ朝の時代を経て、イスラームの進出などにより次第に歴史の表舞台から姿を消していきますが、その遺産は今日の中央アジアや仏教美術に深い影響を与え続けています。