インダス文明は、紀元前2600年頃から紀元前1900年頃にかけて、現在のパキスタンおよび北西インド地域に広がった古代都市文明であり、メソポタミア文明やエジプト文明と並ぶ四大文明の一つとされています。この文明は、モヘンジョ・ダロやハラッパーといった高度に計画された都市遺構を特徴とし、碁盤目状の街路、下水道や排水施設の整った住宅、公共浴場など、当時としては非常に進んだ都市インフラを備えていました。また、統一された規格の度量衡、焼成レンガの使用、印章に刻まれた文字や動物の図像などから、高度な経済活動と社会組織の存在がうかがえます。農業においては、灌漑を用いた小麦や大麦の栽培、牧畜の発達により、安定した食料供給を実現していました。
他の古代文明との比較において、インダス文明は独自の文化要素を持ちながらも、メソポタミアとの間に交易関係があったことが知られており、インダスの印章や製品がメソポタミア遺跡から発見されていることからも、海上および陸上の交易ネットワークを通じて文化や技術の交流が行われていたと考えられています。例えば、インダス文明の印章に見られる動物のモチーフや象形的な文字体系は、後世の南アジア文化に影響を及ぼした可能性があり、宗教面においても、後のヒンドゥー教に見られるヨーガ的姿勢の人物像や神格化された動物信仰の萌芽がこの時代に遡るとする説もあります。
文明の衰退の要因ははっきりとは解明されていませんが、気候変動やインダス川の流路の変化、大規模な洪水などの自然環境の変化に加え、外部勢力の侵入説や交易システムの崩壊などが複合的に作用したと見られています。いずれにしても、インダス文明はその計画都市と技術の水準の高さ、交易を通じた国際的な関わり、そして後世の南アジア文化への潜在的影響において、世界史的にも重要な位置を占める古代文明です。
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