大乗仏教は、紀元前後にインドで成立した仏教の一派であり、その最大の特徴は「自利利他(じりりた)」の精神にあります。これは、自分自身の悟りを目指すだけでなく、すべての衆生(生きとし生けるもの)の救済を目指すという考え方です。大乗仏教では、仏になることを究極の目標とし、そのために「菩薩(ぼさつ)」という理想像が重要視されます。菩薩は、自らは悟りを開く境地に至りながらも、あえてこの世にとどまり、苦しむ人々を救うために尽力するという慈悲の精神を体現しています。
そのため、大乗仏教では、具体的な実践として六波羅蜜(ろくはらみつ、布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧)が説かれ、これらを実践することで菩薩道を進むとされます。また、「空(くう)」の思想も大乗仏教の重要な教えの一つであり、すべての現象が本質的に独立した実体を持たないことを説き、執着から離れることを促します。この大乗仏教は、中央アジア、チベットを経て、中国、朝鮮半島、そして日本へと伝わり、東アジアの仏教文化に大きな影響を与えました。
一方、小乗仏教は、大乗仏教側から見て「自己の悟りのみを追求する」という批判的な意味合いで使われた呼称であり、現在では「上座部仏教(じょうざぶぶっきょう)」と呼ぶのが一般的です。上座部仏教は、釈迦の教えと戒律を厳格に守ることを重視し、出家して修行を積むことで阿羅漢(あらかん)という個人の悟りを目指します。この教えは、主にスリランカ、タイ、カンボジア、ミャンマーなどの東南アジア諸国に広まりました。
大乗仏教と小乗仏教(上座部仏教)の主な相違点は、まず「救済の対象」にあります。大乗仏教がすべての衆生の救済を目指すのに対し、上座部仏教は基本的に出家修行者個人の悟りを重視します。次に、「理想像」も異なります。大乗仏教では利他行を実践する「菩薩」が理想とされる一方、上座部仏教では自己の解脱を達成した「阿羅漢」が目指されます。
さらに、「経典」においても違いがあり、大乗仏教は独自の「大乗経典」を多く生み出したのに対し、上座部仏教は釈迦の教えを伝える「パーリ語原始仏典」を重視します。このように、両者は仏教の根源的な教えを共有しつつも、その実践のあり方や目指す方向性において異なる発展を遂げたと言えます。
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