ナゾー・トクヒ(Nazo Tokhi)は、17世紀末から18世紀初頭のアフガニスタンに生きた女性詩人であり、またパシュトゥーン民族の誇りとされる歴史的人物です。彼女はパシュトゥーン人の有力な部族であるギルジ系のトクヒ家に生まれ、その出自からも政治的・文化的影響力のある家庭に育ちました。特に彼女は、後にホタク朝を興した民族的英雄ミールワイス・ホタクの母、あるいは叔母であったと伝えられており、その存在は単なる文学者としてだけでなく、民族的な精神的指導者として語られています。
ナゾー・トクヒの活躍した時代は、サファヴィー朝ペルシャの圧政がパシュトゥーン人を苦しめていた時期であり、彼女の詩や言葉は、自由と誇りを求める民族の心に大きな影響を与えました。特に彼女は家庭内にとどまらず、部族間の和解や団結を呼びかける知恵者として尊敬され、戦争と平和の判断に助言を与えるなど、政治的にも一定の役割を果たしていたとされています。
その詩作は、パシュトゥーン語で書かれ、愛国心、名誉、信仰、家族への忠誠など、パシュトゥーンワーリー(パシュトゥーンの伝統的倫理規範)に基づく価値観が色濃く反映されています。彼女の詩は、戦に赴く若者たちへの激励や、敵への怒りと正義の訴え、母としての愛情など、多様な感情と深い精神性を湛えており、今なおアフガニスタンでは学校教育や文学教育の中で取り上げられることもあります。
そのため、ナゾー・トクヒは単なる歴史上の詩人ではなく、「アフガンの母」とも称されるほどに、民族の精神的支柱として崇敬される存在となっています。彼女の人生と詩作は、パシュトゥーン社会における女性の可能性を象徴するものとして、現代においても再評価が進められています。
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