ロシア外務省は7月3日、アフガニスタンのタリバン暫定政権を正式に承認したと発表しました。タリバン政権の承認は世界で初めてです。この動きは単なる外交的な象徴ではなく、ロシアの地政学的・経済的な意図、タリバン政権の思惑、さらには中国の対アフガニスタン戦略にも大きな影響を与えるものです。
ロシア外務省は暫定政権の承認について、「両国間の生産的な協力関係の発展に弾みをつけるものと確信している」として、経済分野やテロ対策などでの連携に期待を示しています。タリバン暫定政権のムッタキ外相も声明を発表し、ロシア政府に謝意を示した上で、「アフガニスタンとロシアの関係をさらに拡大させるものだ」と評価しました。
ロシアがタリバン政権を承認した背景には、自国の影響力拡大を狙う地政学的な意図があります。アフガニスタンはロシアにとって戦略的に重要な中央アジア諸国と国境を接しており、その安定は安全保障上の喫緊の課題です。特に、米欧諸国がこの地域で影響力を失った今、ロシアは空白となった外交空間を埋め、自国の存在感を強めようとしています。また、タリバンを外交パートナーとして承認することで、アフガニスタン内外のイスラム過激派、特にイスラム国ホラサン州(IS-K)などの勢力拡大を抑え、中央アジア地域の安定に寄与する構えを見せています。
さらに注目すべきは、経済的な利権確保というロシアの現実的な狙いです。アフガニスタンは未開発の鉱物資源、特にリチウムやレアアースなどの戦略鉱物が豊富に埋蔵されていることで知られています。国際社会からの制裁に直面するロシアにとって、新たな経済的パートナーを確保し、資源の開発・輸出における影響力を強化することは死活的な問題となっています。タリバン政権に対し「最初の承認国」という立場を得ることで、今後の鉱山開発やインフラ整備における優先的地位を確保しようという思惑があると推測されます。
一方、タリバン政権にとっても、ロシアの承認は大きな意味を持ちます。2021年に再び政権を掌握して以降、タリバンは国際的な正統性を持たないまま統治を続けてきましたが、今回のロシアの決定はその正当性獲得に向けた突破口となり得ます。また、経済制裁や外資の不足に苦しむ同政権にとって、ロシアからの投資や支援は国内経済の再建に資する可能性が高く、ロシアとの関係強化を通じて、今後は中国やイラン、パキスタンなど、他の近隣諸国との外交的関係を深める足がかりとしたいという意図も読み取れます。
このような中、ロシアの動きに最も注目している国の一つが中国です。中国はこれまでもタリバン政権と慎重ながら関係を維持しており、ロシアの承認を受けて、より積極的な関与に転じる可能性があります。中国にとって、アフガニスタンは「一帯一路」構想の陸路交通網にとって重要な位置を占めており、道路・鉄道といったインフラ整備を進める上での安定的なパートナーとしてタリバン政権を重視しています。また、新疆ウイグル自治区の治安維持の観点からも、タリバンに対しウイグル系過激派の活動抑制を強く求めており、ロシアと連携してタリバンへの影響力を確保したいとの思惑が見受けられます。
さらに、中国はアフガニスタンに眠るリチウムや銅、レアアースなどの戦略鉱物にも大きな関心を寄せており、すでに複数の鉱業プロジェクトを進めています。ロシアの承認を受けて、今後は鉱物資源の開発をめぐって中ロ間で協調あるいは競争が進む可能性があります。
総じて言えば、今回のロシアによるタリバン政権の承認は、国際社会におけるアフガニスタンの位置づけを大きく変える第一歩となり得ます。それは、アフガニスタンをめぐる中ロの影響力争いを活性化させ、ユーラシアにおける多極秩序の形成を加速させる兆しともいえます。アフガニスタンは再び大国の戦略的競争の舞台として浮上しており、その未来はロシアと中国の動向に大きく左右されることになるでしょう。